1.科学技術を中心とした歴史の流れ

(1)中国の夢

2012年11月、習近平が胡錦濤の後任として中国共産党総書記に就任した。翌年3月の全国人民代表大会において習近平総書記は国家主席に選出された。その全国人民代表大会の閉幕式で習近平総書記は、「私は中華民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う」と述べた。また、「小康社会の全面完成、富強・民主・文明・調和の社会主義現代化国家の完成という目標の達成、中華民族の偉大な復興という夢の実現は、国家の富強、民族の振興、人民の幸せを実現させるものである」とも述べている。すでに世界第二位の経済大国としての立場に立脚して、習近平総書記はこの中国の夢実現に向けての努力を重ねている。

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(2)一帯一路

一帯構想は、2013年9月にカザフスタンのナザルバエフ大学で習総書記が行った演説や、同年10月のインドネシア国会での演説で提唱され、2014年11月には北京市で開催されたAPECでも強調された。

同構想は、中国からユーラシア大陸を経由してヨーロッパにつながる陸路の「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、中国沿岸部から東南アジア、南アジア、アラビア半島、アフリカ東岸を結ぶ海路の「21世紀海上シルクロード(一路)」の2つの地域で、インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進する計画である。新中国建国100周年に当たる2049年までの完成を掲げている。かつて東は中国から西はローマ帝国に及ぶ広大なシルクロードを勢力下に置き、鄭和の艦隊がアフリカの角にまで進出して文化や経済と科学技術をリードした中国の栄光を取り戻すとするもので、中国の夢ともつながる。

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(3)汚職撲滅と貧困対策

2012年11月、党総書記として初の記者会見に臨んだ習は就任スピーチで、深刻化している党員の汚職問題に取り組み、社会保障の改善など民生を重する姿勢をアピールした。2013年1月の中国共産党中央規律検査委員会全体会議で、習近平総書記は「大トラもハエも一緒にたたけ」と反腐敗の号令をかけた。党内の腐敗が中国という国を滅ぼすとの強い危機感を訴え、汚職・腐敗の撲滅が共産党政権の安定と継続を保証するとの硬い決意で取り組み始めた。

今回の習総書記による「脱貧困」政策は、一部の人々を豊かにさせるという段階から、次の「共同富裕」の段階に入ったという認識による。「共同富裕」を目指すことが、発展優先の現実路線から、社会主義の理念を優先することに傾くことにつながると考えられるからである。

2012年9月に、中国共産党中央と国務院は「科学技術体制の改革の深化、国家創新体系の構築の加速に関する意見」を公表した。その直後の11月に党総書記に就任した習近平は、胡錦濤政権の政策を引き継いで国家中長期科学技術発展計画綱要(2006~2020年)を実施し、科学技術体制改革を深化させ、科学技術の経済・社会発展に対する役割を十分に発揮させることにより、イノベーションを加速させるとする「創新駆動発展戦略」を実施していった。

2013年2月、国務院は「国家重大科技基礎施設建設中長期計画(2012年~2030年)」を公表した。この計画は、国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)に基づき、国として重要な科学技術インフラの整備を中長期的に進めるために作成されたものである。

2014年3月、国務院は「国の科学研究項目資金管理改善・強化に関する意見」を公表し、さらに同年12月、国務院は「国の科学技術プロジェクトの管理改革深化に関する方策」を公表した。これらは、改革開放政策以来これまでに様々な基金やプロジェクトが設定されてきたが、重複があったり非効率な面が指摘されたりという課題があったため、廃止や統合などを通して最適化することとしたものである。

中国経済は高度成長から中高度成長に移行した「新常態」経済にあると考えられ、習近平政権は新産業創出や起業支援などにより中所得国の罠を克服し産業構造を変革しようとして、一連の新たな産業技術政策を打ち出している。2015年に、「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」政策、「インターネット+」と「電気自動車の充電インフラ建設」政策、および「大衆創業・万衆創新」政策が開始された。また2017年には、「次世代人工知能(AI)発展計画」も開始されている。

2016年5月に開催された全国科学技術イノベーション大会で、習近平総書記が講話を行い、中国の科学技術発展の「三歩走(三段階ステップアップ)」戦略目標を掲げ、世界の科学技術強国の構築を打ち出した。

2016年5月、中国共産党中央と国務院は「国家創新駆動発展戦略綱要」を公表した。この綱要は、2006年の国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)を強化・敷衍する中長期的な計画である。2016年8月にはこれらの綱要に基づき、最初の五年間をカバーする「国家科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016〜2020年)」を公表した。

2017年1月国務院は、世界一流大学と一流領域の建設を目指す「双一流建設政策」を打ち出した。

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2.科学技術の特徴~創新駆動型発展戦略

習近平政権の科学技術イノベーション政策は「創新駆動型発展戦略」と呼ばれるが、前の胡錦濤政権と大きく変わらず、基本的には改革開放以来の科学技術を第一の生産力とする鄧小平の路線を引き継ぐものである。また、胡錦濤政権時代により強調された創新(=イノベーション)重視も変わらない。

特徴の一つ目は、江沢民と胡錦濤両政権時代に続く、研究開発資金の拡充である。次表に示すとおり、2013年には1兆1850億元(18兆6600億円)であったものが、2017年には約1兆7610億元(29兆2200億円)までになっている。ただ、胡錦濤政権の末期にはGDPも研究開発費も日本を追い抜いて世界第二位となっており、伸び率はそれほど大きなものではない。2017年時点で、中国は日本を遙かに凌駕し米国の半分程度に達している。

図表1 研究開発費の比較

※表は右にスクロールできます。

国名2013年の研究開発費2017年の研究開発費伸び率
中国1兆1850億元(18兆6600億円)1兆7610億元(29兆2200億円)7.78倍
米国4550億ドル(44兆4000億円)5430億ドル(60兆9300億円)1.77倍
日本18兆1300億円19兆500億円 1.21倍
(出典)文部科学省 「科学技術要覧 令和2年版」

二つ目の特徴は、中国国内だけでなく世界全体を見据えて科学技術を推進するという考えが強くなってきたことである。これまでの政策は、欧米を科学技術の先進諸国と見て、これらにどのように追いつくかという観点からの政策が主体であったが、すでに様々な科学技術指標で欧州諸国や日本を追い越しつつあり、科学技術の巨人である米国の背中が見えてきているのが現状である。そこでこの発展著しい科学技術力をもとに、アヘン戦争以来の屈辱の歴史に終止符を打ち中華民族の偉大な復興を目指そうとするものである。一帯一路と科学技術との連携もその一環である。

三つ目の特徴は、ハイテク技術の産業化の促進である。すでに基礎研究などで米国と並び世界最先端に位置することになったとの自負から、習近平政権はこの科学技術力を活かした産業政策の展開を図っている。ICT、バイオなどのハイテク技術への支援を強化し、その産業化を促進している。その代表的な政策が「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」であり、AI、インターネット、電気自動車などの個別産業政策も次々と打ち出している。

四つ目の特徴は、研究不正や研究倫理問題の顕在化である。急激な研究資金や研究者数の増加を受けて論文や特許取得数が激増してきたが、それに伴って研究不正などの問題が急増している。とりわけ腐敗撲滅を掲げた習近平政権では、研究不正が科学者・技術者の腐敗と捉えられ、多くの関係者が取り調べられ更迭されている。また研究倫理での課題も出てきている。一昨年にゲノム編集技術を用いた双子のベビー誕生で世界を仰天させており、霊長類を用いた実験動物の扱いを巡っても欧米諸国の研究コミュニティとの間で議論が行われている。これらは、科学技術活動が大きくなったことが主因であるが、放置すれば科学技術先進国としての中国の評価にマイナスとなることに留意すべきであろう。

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3.科学技術の成果

中国の科学技術力は改革開放以来の弛まぬ努力を経て向上し、現在では論文や特許取得などの指標で見て、分野によっては世界トップを走る米国と競争しうる立場にまで来ている。

習近平政権での具体的な成果としては、まず宇宙開発を挙げる必要があろう。「神舟」シリーズによる有人宇宙飛行を次々と成功させ、2013年末には「嫦娥3号」が月面軟着陸に成功し、あわせて月面車「玉兔」の活動にも成功した。2019年1月には、「嫦娥4号」は月の裏側への着陸に世界で初めて成功した。このほか、やはり世界で初めて量子通信の実験を行うための人工衛星「墨子」を、2016年に打ち上げている。

2015年12月、抗マラリア薬であるアルテミシニン(青蒿素)を発見した屠呦呦(とようよう)が、中国国内で研究を続けた中国人として初めてノーベル生理学・医学賞を受賞した。2016年6月には、国家並列計算機工学技術研究センターが開発したスパコン「神威・太湖之光」が、93ペタフロップスの計算速度によりランキングTOP500で1位となった。

次表に示すとおり、中国は科学論文数でさらに拡大を続けており、2017年時点では米国とほぼ互角となっている。なおこの表は、クラリベート・アナリティクス社のデータをもとに科学技術・学術政策研究所が集計したものを用いているが、別途米国のNSFが公表したデータではすでに中国は科学論文数で米国を抜き去って世界第一位であるとしている。

図表2 主要国の科学技術論文数の比較

(単年、整数カウント法)

2013年2017年
論文数順位論文数順位
中国218,0922344,7332
米国 342,9151370,8331
日本78,61180,5215
(出典)文部科学省科学技術・学術政策研究所

「科学研究のベンチマーキング2019」

また次表は、この時期に他の主要国と比較して、どの程度中国の特許申請件数が増加したかを見たものである。これで見ると、中国の特許出願数の増加もさらに加速し、2018年時点で米国の約3倍、日本の約5倍となっている。

図表3 主要国の特許出願件数の比較

2013年2018年
件数(万件)順位件数(万件)順位
中国82.51154.21
米国57.2259.72
日本32.8331.43
韓国20.5421.04
(出典)文部科学省「科学技術要覧 令和2年版」

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4.参考資料


・JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター『中国の科学技術の政策変遷と発展経緯(PDF)』2019年
・天児慧『中華人民共和国史』岩波新書 2013年
・天児慧『中国の歴史11 巨龍の胎動』講談社 2004年
・安藤正士『現代中国年表1941-2008』岩波書店 2010年

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